最高裁判所第一小法廷 昭和54年(オ)149号 判決 1979年6月21日
上告人
糸日谷みどり
右訴訟代理人
中條秀雄
被上告人 検事総長
辻辰三郎
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人中條秀雄の上告理由第一点について
嫡出でない子と父との間の法律上の父子関係を成立させるためにどのような制度を定めるかは、立法的裁量に係る事項であり、民法が嫡出でない子と父との間の法律上の父子関係は認知によつてはじめて発生するものと定めていることは、身分関係の法的安定を保持する上から十分な合理性をもつ制度であつて、憲法一三条に違反するものではなく、また、右の規定は、すべての嫡出でない子について平等に適用されるのであるから、憲法一四条一項に違反するものでもないことは、いずれも当裁判所の判例(昭和二八年(オ)第三八九号同三〇年七月二〇日大法廷判決・民集九巻九号一一二二頁)の趣旨に徴して明らかである。論旨は、採用することができない。
同第二ないし第四点について
所論の点に関する原審の判断は、その適法に確定した事実関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は、いずれも採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(戸田弘 団藤重光 藤崎萬里 中村治朗)
上告代理人中條秀雄の上告理由
第一点 憲法違反
原判決は、「非嫡出子と父との間の法律的な父子関係は認知をまつてはじめて発生するものであり、認知のない限り、いかに事実上父子関係が存在するとしても、これを法律上の父子関係と認めることは許されない。」としている。
しかし、このような解釈は、形式上の法解釈論にとどまるものではなく、個人の尊厳と幸福等追及に関する立法上の尊重を規定した憲法第一三条に違反する。のみならず、国民の平等を定めた憲法第一四条一項にも違反する。
すなわち、法律上の父子関係の存在が単なる民法七七九条以下に定める認知以外に方法がないとするならば、事実上の父子関係があつたとしても、認知の方式によれないいかなる事情が存するにしても父子関係は存在しないこととなり全く不合理である。実際父子関係が法律上存在しない子の社会生活における現状は、父なし子として扱われ、就職、婚姻等社会生活上において差別され一般市民と比して著しく精神的、経済的に困窮していることは、公判の事実である。民法上の認知の制度は、制度としてはともかく、条文上父子関係の存在を認知だけによつて認めているとしているのでもない。
もし、原判決のような判断が是認されるとしたら、父子関係が法律上認められない子にとつて、個人としての尊厳、幸福追及に関する権利は無視され、父なし子としての社会的身分により差別を受けることになる。
よつて、父子関係存在確認の請求は、単なる立法政策上の問題ではなく、法解釈上の問題でもなく、もし現行法上認知以外に定めていないとしたら、立法上の不備か解釈の誤りであつて、結局は憲法一三条、一四条一項に反することになる。
第二点〜第四点<省略>